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9 (最終回)
 

誰も何も話さない、気の遠くなるような沈黙が続いている。
川口は、話すことは山ほどあるのに、そのすべてが空しく、
今、話しても仕方がないと感じていた。
沢木は、相馬の出したコーヒーを飲みながら、煙草をふかしていたが、
その火を灰皿に押し消し、静かに言った。
「マスター、そろそろ行きましょう。事務方の連中が来る前に、
一応の手続きを済ませておいた方がいい。深夜に自首してきたとするわけですから」
「そうですね。いろいろ面倒かけてすみません。着替えてきます」
和幸は、更衣室の方に向かった。残った人間達の間に再び沈黙だけが残った。
オーディオが故障したのかも知れない。
誰も話さない重苦しい空気の中に、先刻から、レフトアローンだけが繰り返し流れていた。
「チーフちょっと来てくれませんか」
5分程った後、和幸は更衣室から相馬を呼んだ。
ほどなく地味な焦げ茶色のスーツにタートルネックのセーターを着た和幸が
相馬と共に戻ってきた。
「行きましょうか、沢木さん」
真由美と隠れている幸子以外の4人は店を出た。
階段をあがりかけた時、先に店を出た和幸は引き返してもう一度店のドアを開け、
ゆっくりと店内を見つめ、店の中に向かって頭を下げた。

階段を上がると、11月の雨上がりの、明るくなりはじめている夜明けの外気は、
熱くなった目とほてった頬とドロドロにつかれた体を癒すような気持ちのいい冷たさだった。
この時期の朝方、酒場から出た時に感じるいつもと同じ空気のはずが、
今朝は何か違っていた。
そして、皮肉にも空気だけをとれば、今までに経験したことのないような、爽やかな朝だった。
川口と和幸、相馬と沢木の4人は、まだ車の走っていない車道を横切り、
別れを惜しむようにゆっくりと関内の駅の方に歩いた。
この時間が続いてほしいと思った。
しかし、10mも歩かないうちに和幸は立ち止まり、川口に言った。
「この辺でいいよ、兄さん」
「わかった。沢木さん、じゃあ後はよろしくお願いします。」
頭を下げた川口に、沢木は小さく「はい」とだけ答えた。
「兄さん、幸子のことよろしく。それと新しい会社頑張ってよ。じゃあね。」

(じゃあね、か)

子供の頃から何度も聞いた和幸の別れ際の台詞。
でも、今日の『じゃあね』は、永遠の別れのように感じた。
遠くで自動車の走る音だけがかすかに聞こえる。
ここが都会だということを忘れさせてしまうほどの静けさ。
その時、背後でかすかに"レフトアローン"が聞こえた。
音に気付いた沢木が振り向く。
視線は、川口と相馬を通り越し、背後の店の階段の方へ向いていた。
つられて川口も振り向くと、真由美に支えられながら幸子が階段を上がってきた。
そして何かを言った。
唇の動きは、「パパ…、さようなら」という風に見えた。
和幸は振り向かずに、サヨナラを告げるようにゆっくりと右手をあげ、
沢木を置き去りにするように歩きだした。
泣きはらしたような化粧っ気のない顔で、幸子は、遠ざかっていく和幸を見つめていた。

「さあ、来月から頼むよ、チーフ」
わざと明るく言った川口に、相馬は和幸の方をじっと見ながら言った。

「店、今月で人手に渡るんですよ」

「え?どういうこと?上がりから毎月、幸子に送るんじゃないのか?」
「奥さんには、店は従業員に任せると言ったそうです。
レインマンは、マスターと奥さん2人で始めた店で、
きつい時には一緒にランチまでして頑張っていました。
だから、その店がなくなるということは言えない、と。
それと、マスターが帰って来た時、
仕事がないんじゃないかと奥さんが心配するから言わなかったそうです。
店の経営のことはお兄さんに任せるから、と嘘をついて安心させたかったんです」
「どうして俺にまで嘘をついたんだ?もしかして、幸子がいるってこと…」
「ええ、私が言いました。本当は、今日店を売ったことをお兄さんに言って、
これを渡すはずだったんです。」
相馬は、封筒を手渡した。中には通帳とキャッシュカードが入っていた。
「でも、お兄さんが奥さんを呼んでしまった。
このままマスターに知らせないと、マスターは本当のことを話してしまう。
それを聞かれてはいけないと思いました。」
淡々と、しかし今にも泣き出しそうに少し声を上擦らせながら相馬は言った。
「残ったみんなで頑張っていけなかったのか?」
「私たちもそう言いました。でも、実は、そんなに売上よくないんです。
このままじゃ奥さんに送るお金はできそうにないということをマスターは分かってました。
だから、僅かとはいえまだ黒字の間に店を売ったそうです。
私たちにも迷惑をかけたと言って餞別をくれました。
マスターの先輩はいい方で、
レインマンという名前を残してほしいというマスターの希望も聞いてくれた上で、
相場よりもいい値段で買ってくれそうです」
「先輩って、どんな人が買ったんだ?」
「今日いらっしゃってましたよ、カウンターでお兄さんの反対に座ってた白髪の人です」
髪も髭も真っ白で、目尻のシワが印象的な人なつっこそうな笑顔が思い浮かんだ。

「おや、ご身内の方ですかな?マスター」
「兄貴なんですよ。」
「ほう、弟さんのお店にお兄さんが来る、仲が良くていいことだ。」
「そうでもないんですよ。滅多に来ませんから、兄貴は」

(あの人が、そうだったのか…)
通帳と一緒に振込先と短い走り書きが入っていた。

    ここから毎月20万ずつ、幸子に振り込んでください。
    お金は兄さんが管理してください。
    こんなこと言うと少し心配ですが、独立の資金に充ててもらっても構いません。
    ただ、必ず毎月返済として幸子に振り込んでください。
    さっきの100万じゃ足りないでしょ?
    足りない分を、母さんに頼ってほしくなかったので、兄さんを信用して預けます。
    仕事、成功させて、母さんを少し楽にしてやってください。

あの着替えで更衣室にいる間に書いたのだろう。
子供の頃以来、久しぶりに見る和幸の字だった。
通帳には520万円入っていた。
(26ヶ月分、2年とちょっとか…)
初犯とはいえ、麻薬の売買に殺人、2年じゃ出て来られないだろう。
その後は、どうするか…。川口の頭をよぎった。
「ああいうことをして作ったお金も、
店の足りない分と奥さんに渡す生活費でほとんど消えてしまっていたようです。
私たちの給料も遅れたことはありませんでしたし、
従業員は、このままあの店で働けるようにしてくれました。
出入りの業者やマスターと仲のいいお客さんもここ2週間位の間に店に呼んで、
これからもよろしくお願いしますと、頼んでました。
奥さんや娘さん、従業員やお母さん、そしてお兄さん。
最後は、自分のことより、他の人のことばかり考えていましたよ、マスターは。」
相馬は涙声だった。
「自分がこれから、どうなるか分からないってのに…。」
川口は、真実を知らされ、驚きとやるせない気持ちになった。
(本当に、もう会えないのかも知れない…)
遠ざかっていく和幸の背中を見つめながら、川口はぼんやりとそう感じた。

「どうして、あんないい人がこういうことになるんでしょうね」

相馬がつぶやいた瞬間、胸の奥の方で、
怒りとも悲しさとも違う表現しがたい感情がわき上がってきた。

可哀想…。

和幸が可哀想でたまらなかった。
しっかりしていても2つ年下の弟であり、その弟を自分は全く守れないというジレンマだった。
唐突に、子供の頃、自分の後ろをニコニコ笑いながらついてくる和幸を思い出した。
ついてくるなと言うと寂しそうな顔をし、
一緒に来いというと嬉しそうに「うん!」といって笑う顔を思い出した。
臆病で気が弱くて、誰かに怒られるとすぐに涙目になる。
怖いことがあると自分の後ろに隠れてしまいような弱い奴…。
そんなあいつがどうして…。
なぜなのか?川口は、子供の頃の、笑顔と泣き顔の和幸しか思い浮かばなかった。
無意識にポケットの中の封筒を握りしめていた。

泣きたくなるような気持ちを押え込むように、涙にならないように、
鼻から何度も大きく息を吸い、深呼吸を繰り返した。
ただ冷たいだけではなかった。
雨で洗い流された空気は、からだ中に染み込んでくるような瑞々しい清らかさがあった。
しかしそれは、汚れや滲みをどんなことがあっても決して許すことのない、
切なくて残酷な清らかさだった。

(了)

 
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